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更新日:2021年11月8日

#02 代表選手はなぜ詫びるのか

 米国に住む私は、オリンピックをテレビで観戦するときには、米NBC局の放送を見ている。しばらく視聴しているうちに、代表選手がインタビューで発する言葉の違いを感じるようになった。米国代表選手は、予想外の不調に終わって期待されていた金メダルを逃しても、謝罪の言葉ではなく、周囲のサポートや応援に対する感謝の言葉を使うことが多いのではないか。このように感じたのは、これまでに何人かの日本代表選手が、期待していた成績を残せなかったときには「ごめんなさい」というような謝る言葉を使っていたことが記憶にあったからだ。

 なぜ、日本代表選手は謝るのだろうか。

 大会前から金メダル獲得を期待されて、それを達成できなかったときには、周囲の落胆を軟着陸させるためかもしれない。しかし、どの国の選手でも、金メダル最有力候補と事前の期待が高まっているときには、大きな重圧を感じている。

 もしかしたら、米国代表は代表の座は勝ち取ったものであり、勝ち取った選手が結果を出せなかったのだから、それは仕方のないことだと、本人も周囲も受け取っているのかもしれない。日本代表は、関係者に選んでもらって代表の座についたので、結果を出せなかったときには、自分を選んでくれた関係者、選ばれなかった他の選手に対して申し訳ないという気持ちが強いのかもしれないと考えたりした。しかし、これらは私の憶測の域を出ない。

 そこで、『オリンピックの言語学―メディアの談話分析』(神田靖子・山根智恵・高木佐知子 編著/大学教育出版)の著書である山陽学園大学の山根教授に取材という形でお話を聞いた。REAL SPORTSというスポーツを扱うインターネットメディアに8月4日寄稿した記事から一部抜粋する。

 

「日本の選手は他国の選手に比べて謝る言葉を使う傾向があるか」。

山根教授の答えはこうであった。

「答えはイエスでもあり、ノーでもあります」

イエスの理由はこのようなものだ。

「一般的には日本では詫びることが必要です。自分が悪くない場合でも、日本社会では詫びた方が、円滑な人間関係が築ける場合が多々あるからです。また、詫びても、詫びた方が金銭的な負担を負うような問題が生じないからです。ですから、一般的には謝る可能性は欧米と比較したら高いと思います」

ノーでもあるというのは次のような理由からだ。

「(日本以外でも)期待されていた種目やお家芸の種目の場合は、負けたときに謝ることが、そうでない種目よりも多いかと思います」

 山根教授の4カ国分析やその後の調査でも、日本以外の選手で金メダルを期待されていた人の談話に謝るような言葉があったそうだ。その国の最も得意とする競技・種目で金メダルの使命を負った選手が期待に応えられなかったときには、どの国の代表かにかかわらず、思わず謝罪の言葉が口をついて出ることがあるのだろう。

山根教授のイエスとノーの分析通りの事例が東京大会ではここまでに2つあった。

日本人選手以外にも、国威を懸けた金メダル獲得の使命を果たせずに謝った選手がいた。卓球混合ダブルスの水谷隼・伊藤美誠ペアに負けた中国の劉詩ブン選手だ。7月27日付の朝日新聞は、中国のSNSである微博(ウェイボー)の中国中央テレビのアカウントが、劉が試合後に「皆さん、ごめんなさい」との言葉と涙を浮かべる写真を掲載したと伝えている。

 もう一方の事例は、米国のスーパースター、体操女子のシモーネ・バイルズ選手である。7月27日の団体決勝で1種目目での跳馬が失敗に終わると、残りの種目は演技しなかった。メンタルヘルスの問題があったと明かした。7月28日付の朝日新聞の記事では悲壮感はなかったことに加え、「誰かに『申し訳ない』と謝るようなこともなかった」とあえて伝えている。この記事の行間から、日本代表なら似たような決断は難しかっただろうし、残りの種目を棄権した場合は謝っていたのではないか、というメッセージも浮かんできた。

 国の威信を懸けた種目で負けて謝った劉選手の無念さ、申し訳ない気持ち。バイルズ選手からは、自ら下した決断の責任を引き受ける一方で、チームと自分のために決めたことであり、悪いことをしたのではないという思いを感じることができた。それぞれの談話からその国の背景やスポーツ、オリンピックの価値を垣間見たといえるのではないか。

 ここまでがREAL SPORTで触れた内容である。

 年が明ければ北京で冬季五輪が行われるが、私は、選手が謝ることはしばらく続くような気がしている。それは、インターネットやSNSの書き込みを見たからだ。詫びの言葉を口にした選手を、謝らずに強気な発言をした選手と比べて謙虚だと好意的に評しているものがいくつもあった。

 その一方で、SNS上には謝る必要などない、という書き込みもあった。山根教授が指摘するように、選手は詫びることによって円滑な関係を維持しようとする。それを受けて、応援していた人たちは「謝らなくてもいい。あなたは十分にやったし、こちらも楽しませてもらった。お疲れ様でした」と応答している。この、「詫びる必要などない」という赦しや敬意によって、日本代表選手の詫びのインタビューは補完され、完結し、選手たちは次の一歩を踏み出すのではないかとも思った。

 

 谷口輝世子(米国在住・スポーツライター)

 REAL SPORT  URL  https://real-sports.jp/page/articles/552682969437832233 (最終閲覧 2021年10月24日)

更新日:2021年3月27日
#01 Tリーグの審判体験とブラジル・サンパウロの卓球クラブ見学

大学時代に卓球を始めて42年、公認審判員の資格を取得して22年、国際審判員の資格を取得して12年になる。その中で、2018年度は私にとって特別な年になった。それは、Tリーグの審判を体験し、またサンパウロの卓球クラブ見学ができたからである。今回はその2点について報告したい。

国内で、日本選手だけでなく外国の一流選手の試合が見られる機会を増やす、それによって卓球のさらなる普及を目指す、そのために実業団チーム同士の試合ではなく、プロチームのリーグを創設する-Tリーグはこのような目的で2018年に設立された。男子は、T.T彩たま、木下マイスター東京、岡山リベッツ、琉球アスティーダ、女子は、木下アビエル神奈川、トップおとめピンポンズ名古屋、日本生命レッドエルフ、日本ペイントマレッツの各4チーム。水谷隼、張本智和、石川佳純、平野美宇、韓国のイ・サンス、台湾の荘智淵など、オリンピックや世界選手権で活躍した選手のプレーを見ることができる。

岡山で生まれたチームもあり、地元で初めての試合が2018年11月16日~17日、岡山武道館で行われた。海外の選手もいるため、審判は国際審判員に限られ、私も参加させてもらえることになった。卓球は近年、大きな大会ではショーアップ化の傾向にあるが、Tリーグは特に「見せる」ことにかなりこだわっているように思われた。入場の仕方、カウンターの大きさ、スコアの見せ方などである。ルールも独自のルールで、シングルスもダブルスも最終ゲームは6対6から始まるので、一本のミスも許されない。ハラハラドキドキの試合展開が期待できる、というわけである。このような中、審判も多くの観客から見られているので緊張したが、何とか終えることができた。 

次は。日系ブラジル人児童生徒の多読教材による効果を研究目的とし、サンパウロに調査に行った際立ち寄った、サンパウロの卓球クラブについて報告する。

「ITAIM KEIKO」(クラブ創設にあたり、多大な支援をされたAbe兄弟の会社名から名付けられた。現在スポンサーは、「Butterfly」のブランドで有名な日本のタマスという卓球用品メーカーである)というジュニア育成を中心としたクラブのコーチ、Marcos Yamadaさんを知人に紹介してもらい、2019年3月23日、練習場に行った。卓球台は6台、男女合わせて20人ほどのメンバーが集まっていた。小学生から高校生までで、将来オリンピック選手を目指す子どもたちもいるため、レベルはけっこう高い。コーチのYamadaさんは日系人だ。

最初に私が打った女の子のレベルは、このチームの中でもトップクラスだった。2人の女の子と15分ほど打った後、チームには私のようなカットマン(守備型の選手)がいないので、Yamadaさんが皆に紹介してくださった。「彼女はカットマンだから、皆、カットマンがどういうものか見ておきなさい」とおっしゃって、私はデモンストレーションをすることになった。これまた緊張したが、皆、興味深く見てくれたのでうれしかった。

Yamadaさんの話によると、中南米では日系人の国際スポーツ大会があるとのことで、バレーボール、ゴルフ、サッカー、テニス、柔道、卓球などがその中に含まれるそうだ。「あなたも参加できるよ」と言われ、いつか私も出てみたいと思った。

初めてのブラジルだったが、日系人が多いサンパウロで1週間を過ごし、多くの素敵な出会いがあったことでブラジルが大好きになった私は、来年も行こうと心に決めている。

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執筆者紹介

山根智恵
1.T.LEAGUE(Tリーグ)審判 
2018.11.16 岡山リベッツ vs T.T彩たま
2018.11.17 岡山リベッツ vs 琉球アスティーダ  於:岡山武道館
2.第58回大阪国際招待卓球選手権大会(全国オープン)審判
  2019.2.15-17  エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)
         明治スポーツプラザ(大阪市立難波スポーツセンター)
3.ブラジル・サンパウロの卓球クラブ見学&交流
  2019.3.23